束の間の話 その⑧  〜黄昏時の廊下の上で〜

総論

休憩室からの帰り道、長く続く病棟の廊下の向こうに、白波百合は西日に照らされ顔に影を作ったリハビリスタッフを見つけた。誰っすかね?と首を傾げ目を凝らして見る。

薄く紅色を思わせる癖っ毛は蒲公英色の髪留めでしっかりと纏められており、長い睫毛は大きい瞳をさらに大きく見せて、その真っ直ぐとした瞳を彩っていた。

そしてそのリハビリスタッフは細く整った顎先を僅かに上へ向けると右手の甲をそれに沿わせて白波へと目線を向ける。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

あらあら!白波さんご機嫌よう!私の事をお忘れかしら⁈

白波 百合
白波 百合

えぇと・・・あっ!確か学生の頃同じクラスだったっすよね⁈ ここに就職してたんすね!

桜井 玲奈
桜井 玲奈

相変わらずぬぼーっとした話し方で腹が立ちますわね! 違う病棟ではあるけれど、歴としたアナタと私は同期!もといライバルなのはお忘れかしら⁈

白波 百合
白波 百合

そうだったんすねー。友達とまた出会えて嬉しいっす!

桜井の眉は額の中心に向けて釣り上がる。細い眉はキッチリとハの字を描いた。またしてもこの女は、、、と桜井は思う。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

京都のええとこのお嬢さんからしたら、九州出身だからといって侮るのかしら⁈

白波 百合
白波 百合

何を言ってるっすか⁈ 九州にはまた遊びに行きたいっす! 食べ物美味しくて暖かくて、前に行った時に感動したっす!すごく良い所っす!

桜井 玲奈
桜井 玲奈

あっあらそう⁈なら別に案内してあげても宜しいけれど、、、って私は何をしにきたのかしら?

桜井は首を傾げる。確かに用事があったのだけど、、、九州のそれも雄大な自然の真っ只中で育ったから、この雅な場所での生活を目指して京都に進学し、この職業に就くために勉強した。

そしてナチュラル京都でええとこ出身の白波に勝手に嫉妬してたのだけど、毒気を抜かれてしまったと桜井は行き先を失った右手をフラフラとさせる。

山吹 薫
山吹 薫

なんだ?また騒がしいな。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

!!⁈

白波 百合
白波 百合

あっ先輩! この人は桜井玲奈ちゃん!学校の時の友達っす!久しぶり過ぎてちょっと忘れてたっすけど、、、

投げられた視線に桜井は思わず顔を伏せる。この人がこの病棟に居るのは知っていたけど、だけどもこんなに急に現れるなんて反則だ・・・

山吹 薫
山吹 薫

なんだか失礼な話だな。ともかくよろしく。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

・・・よ・・・よろしくお願いします。

山吹 薫
山吹 薫

大人しくて良い子じゃないか。白波君も少しは見習うと良い。

白波 百合
白波 百合

こんなキャラ、、、だったっすかね?

桜井は何やらぶつぶつと、聞こえないほどの音量で何やら語ると、手足を真っ直ぐに振りつつ病棟から姿を消した。

山吹 薫
山吹 薫

やたらと硬い歩き方だな。あんな風に歩くと歩行の効率が悪い。

白波 百合
白波 百合

先輩はそういう所がっすがねぇ、、、

何がだ?と聞き返す山吹に白波はなーんにも!と答える。この病院は大きい。だから会ったことない人も居る。同じ学校の友達がいるのはやっぱり嬉しいっす。白波は腕を後ろで組んで桜井が駆けて行った後をぼんやりと眺めてみた。

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

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理学療法士。作家。つむぎ書房より『看取りのセラピスト』を出版。理学療法士としては、回復期から亜急性期を経て、ICUを中心に働き内部障害を中心に患者へと関わる。ご連絡はこちらからも→Xアカウント(旧Twitter)@tanakan56954581 他にも多くの小説ストックあります。

ちなみに千奈美さんの第一話はこちらから

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